文庫本3冊分1,400ページにもなる長い長い物語「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹)を読み上げました!
全編を通して面白く読み通しましたが、すべてが理解できたわけではないと思います・・・
この作品では、いつものように真面目でいて一風変わったところのある青年、それに彼の妻とのおだやかな生活から始まります。
そこに最初は目に見えないくらいのヒビが入ったかと思うとしだいに亀裂が進み、修復できない破綻へと向かい、それからは暗く不条理な物語が繰り広げられます!
井戸の底へ降りるように魂の暗部へ深く深く降りていき、得体の知れないおぞましい世界が顔を覗かせます・・・
さらに、リアル世界でも、先の戦争前後の満州やシベリアの地でのある日本兵の壮絶な体験が語られます。
それまでの村上作品のオシャレな印象では、どろどろした戦争体験のシーンなんかはおよそ不似合い、不釣り合いに感じていたものでした!
氏が強く影響を受けた作家に例えれば、フィッツジェラルド的世界に加えてドストエフスキー的世界が現れてきたのかもしれません・・・
いつも驚き感心してしまうのは、これだけ多数の作品が書かれていながら一つとして同じ比喩表現が見当たらないことです!
たとえば、忘れていた名前を思い出すシーン。
「・・でもこのあいだ突然、ちょっとしたきっかけがあってはっとそれを思い出したのです。風が吹いて、ばたんとドアが開くみたいにね。」
また、辞書が好きでない彼女はそれをこう表現します。
「・・だから辞書が自分の机の上にのっているのを見ていると、どっかの犬が家(うち)の庭に入り込んできて勝手に芝生の上でねじ曲がったウンコしているのを見ているみたいな気持ちになってきちゃうの。」
こういうのもあります。
「僕はその決まりきった毎日の生活のパターンに、ちょうど人が引力や気圧の存在に馴(な)れるみたいに馴れてしまっていた。」
そうそう、読んでいて思わず顔がほころんだのは、また牛河(うしかわ)さんに出会ったことでした!
わたしは、この作品の15年後に発表された「1Q84」を先に読んでいて、そこにも登場している牛河さんの、泥の中を這いずり回りながらも自分の信念に基づいて裏の世界を生きている健気な(?)姿にある種の感動を受けていたのでした。
そして、この作品で再会し、なつかしくて思わず声をかけてしまいました!
もちろん、心のなかで。
「やあ、牛河さん、久しぶり。どお、元気にしてる?」
相変わらずおしゃべりで要領のよい牛河さん!!