「盤上に散る」(塩田武士)は、前々回に紹介しました「盤上のアルファ」の続編とも言える物語です。
同じ人物が登場しますし、また、新たな人物が主人公となって、関西を舞台に熱い物語が繰り広げられます。
もちろん、将棋にまつわる物語です。
それも、今では死語となった、賭け将棋に命を賭ける「真剣師」の生きざまを追った物語です。
主人公の女性は、最近亡くなった母との関係で、この「真剣師」を探すことになり、その途中で知り合った人たちも加わり、思いがけない過去の事実が次々と明るみに出てきます。
登場人物たちがかわす会話は、テンポよくユーモアたっぷりで、まるで漫才を聞いているようなおかしさなのです。
そして、その果に繰り広げられる「真剣師」同士の死闘・・・
最近では将棋といえば、たまに孫の小学1年生の「お相手」をするくらいですが、30数年前の若い頃、一時熱中したことがありました。
定石本を読み、テレビ将棋を観戦し、JR環状線の福島駅近くの関西将棋会館へも何度か足を運び、知らない人と対戦したことがありました。
当時、将棋会館へ将棋対戦を楽しみに来る人はほとんど老人と小学生ばかりでした。
将棋盤をはさんで向かい合う、初めて対戦する体の小さな小学生は、攻めが強くどんどんこちらの玉を目指して攻め込んできます。
無理攻めなのでしばらく守れば逆にこちらが攻める展開になるだろう、と思っているうちにも鋭い攻めが続き、気がつくとこちらの玉が逃げ回る終盤になっていました!
相手の小学生も、無理に無理を重ねて攻め一本に絞っています。
小学生が、すべてを投げ打って最後の王手を放ちました!
わたしの玉は、逃げ方が4通りありました。
そのうち、3つの逃げ方だと、攻めがそこで途絶えてわたしの勝ちが決定します。
あまり難しい局面ではありません。
4分の3の確率、ほとんど勝ったも同然です!
わたしの頭は、白い湯気を吐き出す蒸気機関車のように熱く燃え盛っていました。
わたしは、意を決して、玉の駒を人差し指と中指ではさみ盤上に持ち上げ、一気に振り下ろしました。
パシッ!
わたしの指した手は、あり得ない「最悪の手」だったのでした・・・
負けを覚悟していた小学生の顔に突然赤みがさしました。
拾った勝ちを喜び、対戦者に遠慮なく思いっきりバンザイする小憎らしい「ガキったれ」!
それから、将棋会館へ行く足が遠のいたのは言うまでもありませんでした・・・
「盤上に散る」遠い、遠い思い出!!