定年後のゆる〜くたのしい日々

〜読書、語学、パソコン、音楽などをたのしむ日々のくらし〜

「中国行きのスロウ・ボート」と「洋ナシ」

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

村上春樹氏の最初の短編集「中国行きのスロウ・ボート」を読みました。
まず、中公文庫版の表紙のイラストにグッと目を引き付けられました!

 

海のように真っ青なテーブルクロスに真っ白な皿!
無造作にのせられた2個の洋ナシ!
白地にくっきりと刻まれた黒のタイトル文字!
すぐには意味のとれない不思議なタイトル!
中国行きのスロウ・ボート」!

 

このイラストの単純明快でキッパリとした中にホンワカとしたさわやかさ!
これは、村上氏の物語を読んでいるときの味わい・心地良さに相通じるものがあると思います。
この物語集の本質をみごとなまでに捕らえてイラストという異なるジャンルの表現方法で現し直しているのです!

イラストレーターは安西水丸
彼は、村上氏が作家になる前、ジャズ喫茶を経営していた頃からの友人で、村上氏とも何度か一緒に仕事をしています。(彼は惜しくも4年前に亡くなりました)
彼は、ぞっこん個性的な人のようで、村上氏の小説の中にも彼をモデルにした人物があちこちに登場しているそうです!

 

この短編集には7編の短い物語が集められていて、それぞれに異なる味わいがあります。
その中でも、この短編集のタイトルともなっている「中国行きのスロウ・ボート」、後半部に収められている「午後の最後の芝生」と「土の中の彼女の小さな犬」は、My Favorite Things(わたしのお気に入り)に入れようと思うくらい気に入りました!

 

最初はなんという気もなく読み始めたそれらの物語に途中でグッと心臓をわしづかみにされ、そのまま息もつく間もなく最後まで引っ張られて読み終えました!
うんざりする日常性の中で、ふとしたことから人の心の秘密を覗き見るに至り、人の世の不思議さ・奥深さに思いを馳せる主人公。
短い物語ながら読み終えたときには、良い音楽を聴いた後のようなカタルシスを覚えました・・・

 

「洋ナシ」の言葉使いと「物語」の色使いの妙!!

 

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

 

 

「ラオスにいったい何があるというんですか?」と ムラカミ・マジック

ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集 (文春文庫 む 5-15)

本屋で文庫本の棚に目を流していると、オヤッ?と引っかかるものに出くわしました。
変わったタイトル!
ラオスにいったい何があるというんですか?」(村上春樹

 

村上氏の作品のタイトルは、他の本のタイトルとかなり違っています。
一般的なタイトルでは簡潔で強い響きを与える漢語調がよく使われるのに対して、ひらがな・カタカナ調で柔らかい印象を与えるものが多く見られます。
欧米のミュージックに詳しい氏ならでは、曲のタイトルそのままのものもあります。
ノルウェイの森」「中国行きのスロウ・ボートなど)

 

そして、それらのタイトルには、柔らかい響きと同時にある種の不協和音も含まれています!
本の内容の予測もつかないような抵抗値の高い言葉が組み込まれているからです。
タイトルが心に引っ掛かり、思わずつぶやきます。
いったいどんな物語なんだろう?
こうして、村上氏が仕掛けたクモの網にみごとに捕らえられてしまうのです!

 

この「ラオスにいったい何があるというんですか?」というタイトルにわたしは引きつけられたのでした。
まったくうまくつけたものだと感心してしまいます!
もちろん、この本を買って帰り読みました!

 

この本は小説ではなく、「ラオス」という国名もあるように紀行文集です。
米国、アイスランドギリシャフィンランドラオス、イタリア、熊本を訪れた文章を集めたものです。
ここでは、世界を旅する氏のノンフィクショナルな姿や思いがカラー写真入で綴られています。

 

氏の愛するジャズのクラブがある米国
ノルウェイの森」を書き始めたギリシャ
ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」を書いたイタリア
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の舞台となったフィンランド
・・・

 

タイトルを見てオヤッ?
ムラカミ・マジック!!