定年後のゆる〜くたのしい日々

〜読書、語学、パソコン、音楽などをたのしむ日々のくらし〜

「紀ノ川」と 悠久の流れ


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紀ノ川 (新潮文庫)

♫ 流れる涙 紀ノ川に 捨ててしまった女でも〜
(演歌「和歌山ブルース」だあれも知らないだろうなあ!)

 

「紀ノ川」(有吉佐和子)を読みました。
この作品は、今は亡き有吉佐和子の初期の作品で、映画化、テレビドラマ化もされました。
主人公の花(はな)を、映画では司葉子、テレビでは南田洋子が演じ、当時話題になりましたが、今から50年近く前(古い!)の若かりし頃は「古臭い物語」とある意味バカにして見ませんでした。

 

そんな物語を読んでみようかと思ったのは、図書館で面白そうな読み物を探していてなかなか見つからず、ふと目にしたタイトルの懐かしさに惹かれたからでした。
若い頃はまったく興味がなかった日本の古い事物に、シニアになって俄然興味を抱くようになったのもあります。

 

一方、昨年はふとしたことから村上春樹作品に出会い、そのとりこになりほとんどすべての作品を読み通しました。
村上作品はどれをとっても間違いなく面白く、次に読む本を探す苦労はありませんでした。
新しいものと古いもの、どちらにも興味を覚える支離滅裂、ごっちゃ混ぜの読書遍歴!

 

もうひとつ、「紀ノ川」に懐かしさを覚えたのは、自分が和歌山出身ということもあります。
明治時代、和歌山県北部を東西に流れる紀ノ川の川上、高野山に近い九度山紀本から、はるか下流の六十谷(むそた)へと舟で紀ノ川を下る主人公花の嫁入りから物語は始まります。

 

その花の娘の文緒(ふみお)、さらにその娘の華子(はなこ)らのそれぞれ大正、昭和へと三代にわたる物語が続きます。
この花の孫娘の華子が作者有吉佐和子で、花と文緒は自身の祖母と母をモデルにしているのだそうです。
物語の全編にわたって交わされる会話は、今ではあまり耳にしなくなった由緒正しい(?)「和歌山弁」!
記憶の底に埋もれている子供の頃聞いたなつかしい話し言葉が、活字の殻を破ってホカホカと目の前に立ちのぼってきます!

 

今月初めに花見に訪れた和歌山城の風景も作中に描かれ、作者の分身である華子が小さい頃、太平洋戦争前に祖母に連れられ天守閣に上がるシーンも身近に感じられました。
和歌山城は、終戦1ヶ月前昭和20年7月10日の大空襲で焼け落ちてしまいますが、そのシーンもここに描かれています。
戦後、成長した華子は一人再建された天守閣に上がり、遠くに豊かな碧い水をたたえ悠々と流れる紀ノ川をながめやります・・・

 

花、文緒、残された華子(作者)も亡き今、
悠久の流れ絶えない紀ノ川!!