定年後のゆる〜くたのしい日々

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「収容所のプルースト」と 過酷な環境下の講習会


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収容所のプルースト (境界の文学)

しばらく前、新聞の書評欄で紹介されている本のタイトルを見たとき、強烈な不協和音が頭の中で鳴り響きました!
そのタイトルとは?
「収容所のプルースト」!

 

プルーストと言えば、あの有名な二十世紀を代表する大作「失われた時を求めて」を著したフランスの作家!
裕福なブルジョワの家に生まれ育ち、長じてはブルジョワ社交界のサロンでの経験を生かして大長編小説を書き上げた病弱で神経過敏な作家!
およそ、戦争や軍隊のような不穏なイメージを想起させる「収容所」とは対極に位置する作家なのに、どうしてこんなタイトルが?

 

この本の著者は、ジョゼフ・チャプスキと言うポーランド人で、歴史の狭間で苦難を味わい九死に一生を得る経験をしたのでした!
1939年のナチスソ連によるポーランド侵攻のとき、著者はソ連強制収容所に連行されました。(2年後に解放される)
著者と同じく収容所に連行されたポーランド人の将校たちは、零下40度の極寒と厳しい強制労働が続く極限状態のなかに置かれました。

 

そんな中、昼間の強制労働による疲労困憊の身体にムチ打ちながら、肉体の自由は束縛されても精神の自由を求め、自分たちだけで自分たちのために講習会を行うことにしました。
しかし、テキストとなる書物の持ち込みは禁止されています。
講師は、過去の記憶だけをもとに同僚に知識を与えられる者がなりました。
講習内容も制限され、政治や軍事について語った人たちはすぐにどこかに移送され行方不明となりました!

 

そういう中、プルーストに心酔していた著者が、プルーストの講習を受け持ったのでした。
そもそも極寒の地での強制労働を終え、疲れきったポーランドの将校たちに、フランスのブルジョワ社交界の物語はまったく不似合い、いや不要ではないのかと最初は思われました。
ところが、著者ジョゼフ・チャプスキの講義によれば、表層的には浮ついたサロンの様子を描いているだけと見える長い長い物語の奥には、人間や社会の奥底までをも見通す鋭い観察眼を備えたプルーストが微に入り細に入り描き尽くした裸の人間の姿が刻まれているのでした!

講義を聞いているポーランド人たちは、昼間の強制労働で疲労の極みにあるにもかかわらず目を輝かせて聞き入り、講義内容をノートにメモしました。
その講義メモがあったからこそ、この本が日の目を見ることとなったのでした・・・

 

華やかなパリのサロンと悲惨な収容所をつなぐ1冊の本!!

 

 

収容所のプルースト (境界の文学)

収容所のプルースト (境界の文学)