定年後のゆる〜くたのしい日々

〜読書、語学、パソコン、音楽などをたのしむ日々のくらし〜

「風の歌を聴け」と よみがえる記憶


スポンサーリンク

風の歌を聴け (1979年)

前回ブログで、村上春樹「職業としての小説家」を読み、ずっと前に途中で読むのをやめてしまった氏のフィクションをもう一度読んでみようかと思ったのでした。
そして、「風の歌を聴け」をある緊張感をもって読み始めました!

 

風の歌を聴けは、氏がはじめて世に出した作品で、群像新人文学賞を受賞し、芥川賞の選に漏れた中編小説です。
数十年前、今はひとかけらの記憶もないくらい読み始めてすぐ放り出してしまった作品であり、また、最近はあまりフィクションになじんでいない自分にはたして最後まで読み通せるだろうか、と不安を抱きながら薄い文庫本を手に取ったのでした・・・

 

物語は、29歳の主人公の「僕」が21歳の大学生の頃、夏休みに東京から帰省したとき、友人の「鼠」、それに、ふとしたことで知り合った不思議な女性とのふれあいと別れを文章にしたものです。
この作品はもちろんフィクションですが、多分に主人公に作者村上春樹氏を彷彿とさせる設定になっています。

 

主人公が「29歳」というのは、氏が「風の歌を聴け」を書いた年齢。
主人公が学んでいた「東京の大学」は、氏の卒業した東京の早稲田大学
帰省先の「前は海、後ろは山、隣りには巨大な港街がある」は、氏が育った兵庫県西宮市。

 

読みやすい文体、手頃なページ数、作者と二重写しの主人公・・・ということもあって、無事(?)最後まで読み通すことができました!
意外だったのは、物語を読みながら、長く忘れていたなつかしい感情がよみがえってくるのを覚えたことでした・・・

今は時折さざ波が立つくらいのひっそりと静かな池の水面。
物語を読み進むに連れ、底に堆積した泥に固形となって埋もれていたガスが気泡へと状態変化を始め、水面に上昇し出しました。
気泡にあおられて底の泥土が水中に舞い上がり、それまで澄み渡っていた水面に濁りが現れ出しました・・・

 

記憶の深い深い底に埋もれていた二十歳の頃の感情が思わず浮かび上がってきたのでした。
うんざりするほど永遠に続く退屈な日常!
思い切り力を注ぎたいと思いながらもやり場のないもどかしさ!
未熟な自分と正体の分からない世の中(社会)への不安!
青春特有の高揚感と絶望感との大きなギャップの日々!
・・・・・

もちろんわたしには、この物語の文学的評価なんかは分かりませんが、少なくとも、今となってはなつかしく感じられる甘酸っぱくほろ苦い青春の歌を風の中に微かに聴くことができたように思えました・・・

 

物語の中で再体験するなつかしい日々!!