定年後のゆる〜くたのしい日々

〜読書、語学、パソコン、音楽などをたのしむ日々のくらし〜

「Ways of the Hand(鍵盤を駆ける手)」と ジャズアドリブ

Ways of the Hand: A Rewritten Account (MIT Press)

十年ほど前、ジャズアドリブに魅せられて恐る恐るピアノを触り始めた頃、「Ways of the Hand(鍵盤を駆ける手)」(David Sudnow) という本をネットで知りました。
著者は、米国の社会学者で、自らジャズピアノを習い、習得していく過程を考察し、その分析結果を著した本でした。

そのとき、ジャズピアノ練習の参考になるのと、英語の勉強も兼ねて原書で読むことにしました。
ひと通り最後まで読んだと思うのですが、比較的読みやすい小説などと違って、学者が書いた抽象的で長い文章の連続だったこともあり、ほとんど内容を覚えていませんでした!

それから約十年経過し、その間、5、6年まったくピアノを触らない時期をはさんで、またジャズピアノを再開した今、あるとき興味にひかれて再び本棚からこの本を取り出し、パラパラページをめくり読み始めました。

すると、著者が、初期の段階で疑問に思っていたことが、わたしの今の知りたいこととピッタリ重なることを知り、どんどん読み進めました。
この本は、本文130ページで大部ではないので、数日で読み終えました。
前回読んだときよりはジャズについての知識が増えているので、前回理解できなかったところも、こういうことを表していたのか、と納得する箇所が多々ありました。

全体が3部構成になっています:"Beginnings"(始まり)・"Going for the Sounds"(音を求めて)・"Going for the Jazz"(ジャズを求めて)
一番共感できたのが、"Beginnings"(始まり)で、わたしの知りたい思いと一致した著者の疑問がここに書かれていました。

著者が先生についてジャズを習いだしてから6か月後、少し練習するだけで、新しい曲のコードやメロディーをそこそこ演奏できるようになりました。
あるとき、先生がこう言いました。
「もうひととおり曲のテーマが演奏できるようになったから、右手でアドリブ演奏を試してみたら?」
そこで、著者は家に戻りジャズのレコードを聴きながらこう思いました。
"・・・it was as if the assignment was to go home and start speaking French."
(まるで、家でフランス語を話す宿題が出されたみたいだ!)

フランス語も、耳慣れない音が速く発音されたり、イントネーションが上がったり下がったり・・・、アドリブと同じように分からないことだらけ。
著者は悲鳴を上げます!
"How could I  now learn to do it?"
(いったいどうしたらできるようになるんだ?)
とにかく、アドリブを弾いてみようと思います。
"・・・but I didn't know where to go."
(でも、どこを押さえたらいいのかさっぱり分からない!)

先生にレッスンを受けているある日、著者がアドリブを弾いた後、先生がアドリブのデモを弾いてくれました。
終わった後、著者は尋ねました。
「小指でGマイナーセブンスを押さえたのは、どうしてなんですか?」
先生はこう応えました。
「ルールに従って弾いているわけではないので、どう弾いたか細かく覚えていない」
さらに、こう言いました。
"I just improvise and can't tell you how; you'll develop a feel for it."
(即興で演奏しているんだから、どう弾いているか説明できるわけがない、自分で感じ取りなさい)

こうして、第2部 "Going for the Sounds"(音を求めて)に入っていき、どういう練習をしてアドリブができるようになるのだろうか?とワクワクして読み進みますと・・・
”・・・after a couple of years I thought of myself as one with nearly competent basic jazz skills."
(数年後、有能な基本的なジャズスキルをほとんど身につけることができた、と自分で思えるようになりました)
おい、おい!肝心のところが飛んでしまってるぞッ!

確かに、毎日数時間、多くのミュージシャンがしている技術的な練習をしたり、新しいメロディーの組み合わせやインターバルの関係を探ったり、膨大なレコードを聴いたり、ソロコピーをしたりしたことは書かれていました。
しかし、わたしが知りたかったのは、わたしのような初心者がすぐ試すことができるようなもっと具体的ですぐ効果の出る、そのものズバリの練習内容だったのです!

ただ、著者は、ジャズピアノを習う前に、クラシックピアノの素養があり、音楽の知識も十分持っていたので、そもそもスタート地点が違っていたのでした。
著者は、ハードルをサラリと超え、さらなる良い音を求めて研鑽に励みます。

さらに、第3部 "Going for the Jazz"(ジャズを求めて)では、Jimmy Rowles の演奏に強い影響を受け、ジャズの真髄に触れるまでに至ります。
第2部・第3部は、学者らしい抽象的な表現が何ページにもわたることもありますが、著者の強い熱意に惹き込まれます・・・

習い事に王道なし、地道な日々の研鑽あるのみ!!