前々回で紹介しましたグリコ・森永事件を題材にした「罪の声」が予想以上に面白かったので、著者塩田武士氏のデビュー作「盤上のアルファ」を読みました。
著者は、現在37歳の若手小説家なのですが、デビュー作は31歳のときに書いたものです。
これだけのものを30そこそこの初仕事で仕上げられるとは驚きです!
この著者の作品は、まず、最初の「つかみ」がきわだっています。
いきなり、胸ぐらをつかまれ一気に物語の世界に引きずり込まれてしまいます!
そして、そのまま最後まで引っ張って行かれます。
主な登場人物二人を中心に物語は展開します。
若手地方新聞記者とホームレスに近いヒゲの坊主頭の若者。
新聞記者は、本人はそこそこ頑張っていたつもりの社会部を追い出され、まったく興味のない将棋など担当の文化部に移らされくさっています。
ヒゲ坊主は、両親と生き別れ不幸な少年時代を過ごし、将棋だけが生きがいという屈折した人生を歩んでいます。
まったく接点のなかった二人がひょんなことから出会い、ヒゲ坊主がほとんど実現不可能な将棋のプロ棋士を目指すという展開になります。
著者が、大学卒業後、将棋担当の神戸の新聞記者を務めていたことが下地となっています。
その経験があるので、将棋の詳しい知識がなくても迫力ある将棋の対戦場面が味わえるように表現されています。
人生を賭けた将棋の駒の熱い戦いは、手に汗を握らずには読めないくらい、息詰まる死闘の物語となっています。
また一方、二人の関西弁の会話が面白くて、思わず読みながら笑い声を漏らしてしまったほどでした。
著者が、高校時代、お笑いに興味を持ち漫才コンビを組むほどだったことも影響しているのでしょうか?
自然なとぼけた関西弁のおかしさが、各所に現れています。
吹けば飛ぶよな将棋の駒に人生を賭けた物語をたどる YOGA BOOK!!