なにか面白いノンフィクションがないかと探していた時、1年ほど前、「孫正義伝」(佐野眞一)を読んだのを思い出しました。
徹底した調査と斬新な切り口、それに卓越した文章力に惹き込まれたのを覚えていました。
それで、同じ作者の作品を探すと、「東電OL殺人事件」(佐野眞一)が見つかりました。
この事件は、今から19年半前の平成9年3月に起きた殺人事件で、被害者は39歳の女性。
彼女の生活行動はきわめて異様なもので、昼は東京電力のエリート社員、夜は渋谷の円山町界わいに出没するストリートガール!
ある夜、客となった男によってその命を落としてしまいました。
遺体発見後、すぐに近くに住む不法滞在のネパール人が強盗殺人容疑で逮捕されました。
この本を手にした時、20年近く前、世間の注目を大きく浴びたはずの事件の記憶がわたしにはありませんでした。
わたしは、つい最近起きたばかりの事件の生々しい記事を読む感覚で、このノンフィクションを読み始めました。
読み始めると、すぐに、作者の地に足の着いたていねいな語り口に惹き込まれ、自分も渋谷の場末のすえた臭いをかいでいるような感覚にとらわれました。
作者は、被害者の人もうらやむ高学歴の家庭や育った環境などについて語ります。
次いで、逮捕された容疑者の母国ネパールまで行き、事件当時、同じ部屋に住んでいて今は帰国しているネパール人をインタビューし、容疑者の無実を確信するにいたります。
そして、作者がかいま見た被害者の心の闇(一流企業の幹部社員が退社後毎夜、どうしてストリートガールにならざるをえないのか?)について、心理学者のインタビューをまじえて語ります。
エピローグで、容疑者の無罪の判決が告げられます!
インターネットでこの事件のその後の経過をチェックしますと、容疑者のネパール人は、本のエピローグのとおり一審で無罪になりましたが、控訴審で一転して無期懲役の有罪となり刑に服すことになりました!
その後、事件から15年経った平成24年、遺留品の再鑑定をした結果、容疑者の無実が証明され、長い長い刑務所生活の後、やっとネパールの妻や子供のもとへ帰ることができました!
真犯人は、いまだ特定されていません・・・
記憶の底に埋もれた暗い事件を掘り起こせ、 Chromebook !!