定年後のゆる〜くたのしい日々

〜読書、語学、パソコン、音楽などをたのしむ日々のくらし〜

「ゴッホの手紙」と ゴッホの情熱・苦悩

小林秀雄全作品〈20〉ゴッホの手紙

ひと月ほど前、「ひまわり」の絵画で有名なゴッホについての本を読み、ブログ「ゴッホの耳 と ゴッホの思い出」をアップしました。
その関連で、文芸評論家小林秀雄が半世紀余り前に著したゴッホの手紙」を読みました。

 

ゴッホは、生涯を通じて、全幅の信頼を寄せていた弟のテオに膨大な数の手紙を書き送っています。
この本は、ゴッホの手紙全集を読み感銘を受けた小林秀雄が、ゴッホの手紙を翻訳し、手紙文に評論文を付けたものです。
ゴッホの手紙は、彼がオランダで絵を描き始めた頃から始まり、パリに出て印象派と出会った頃、次いで、彼の才能が一挙に開花する南仏アルル時代を経て、衝撃的な耳事件の後移り住んだオーヴェルで幕を閉じます。

 

一般的なゴッホのイメージは、優れた絵の才能を持ちながら、精神に異常をきたし自ら命を絶った天才画家というものです。
よく知られている絵画「ひまわり」や「糸杉」は、鮮やかな色彩と大胆な絵筆さばきで観るものを圧倒せずにはおきません。
彼の手紙を読むことによって、それらの絵画の裏にひそむ彼の情熱や苦悩を知ることができます!

 

ゴッホの手紙は、膨大な数だけでなく、その内容も嵐のように凄まじいものです!
まるで、絵の具がいたるところに飛び散り垂れ流れキャンバスを埋め尽くすように、次から次へと湧き出る言葉がレターペーパーを覆い尽くします!

ほとんどの彼の出した手紙は、弟のテオ宛のもので、日々の身の回りのことや出会った人の印象から、色彩やデッサンなどの描画方法、また、自らの病への恐れや苦悩、さらには自然や人間性への飽くなき追求へと言葉がほとばしり出ます!

 

しかも、驚くべきことに、それらの言葉がゴッホにとっての外国語(フランス語)で書かれていることです!
ゴッホ母語オランダ語で、両親への手紙はオランダ語で出していますが、弟などへの手紙はすべてフランス語で書かれています!

 

グツグツと煮えたぎり噴き上げるマグマのように、熱い想いをフランスの言葉に乗せ、昼間もうれつな早さでキャンバスに絵の具を塗りつけるように、夜もうれつな早さで紙に文字を書きつけます。
語学の天才!

 

ゴッホの魂の熱い叫びに、小林秀雄の個性豊かな独特の調べが絡み、あらためてゴッホの数々の名作を深く味わわせてくれます・・・

 

「ひまわり」の油絵の具にゴッホの情熱・苦悩を見よ!!

 

 

 

「小さいおうち」と「昭和十年代」

小さいおうち (文春文庫)

2018年の1冊目の本として「小さいおうち」(中島京子を読みました。
この作品は、2010年に直木賞を受賞し、2014年に映画化されましたが、今までスルーしていました。

 

学生時代はフィクションばかり読んでいましたが、就職後は本から遠ざかり、定年後になって再開した読書はノンフィクション中心だったからでした。
若い頃は、経験が少なくまだまだ認識の浅い現実自体に興味を持つよりも、フィクションにまだ見ぬ未来を重ねることからフィクションが好まれるのではないでしょうか?

 

一方、ひと通りの経験を積んだ定年後になると、多かれ少なかれ現実との差異を感じてしまうフィクションよりも、どこまでも得体の知れない奥深い現実自体に魅入られてしまうのだと思います。

 

それでも、以前、映画「小さいおうち」の予告編をテレビで見た時、ミステリアスな感じに惹かれ、それが今回原作を読むに至ったわけでした。
物語を読み進めるにつれ、当初期待していたミステリアスな側面よりも最初は想定外だったものが、徐々に興味の対象として浮かび上がって来ました!

 

それは、「昭和十年代の東京山の手の中流家庭の生活」!
今まで抱いていた戦前の生活の暗く重苦しいイメージが、この本によって一掃されました!
戦前、一般市民は、案外それなりに日々の暮らしを楽しんでいたのでは?

 

もちろん、太平洋戦争が始まり、次第に戦況が悪化するにつれて、あらゆる面で生活が苦しくなっていったのは言うまでもありませんが、少なくとも戦争が始まる以前や戦争の初期の頃は、まだ一般市民の生活や意識はそう緊迫したものではなかったようです。

 

前々回のブログで取り上げた「失敗の本質」で描かれている悲惨な戦況の真実は、当時の一部の人たちと後世の人々だけが知り得たものでした。
一般の市民は、情報をブロックされ、その中で「小さいおうち」の住人のように慎ましい生活を送っていたのでした・・・

昭和初期のノスタルジーへいざなう「小さいおうち」!!